1.一護×織姫<br><br>怖いでしょ、ってみんなは言う。<br> どうして、ってあたしが言う。<br> だっておっかない、ってみんなが言って、そんなことないよ、ってあたしが返す。<br><br>黒崎くんは、そんな人。<br><br>「あ」<br> 今日もあたしは、誰よりも早く教室に入る。それは、このクラスの誰よりも一番先に『あの人』に挨拶したいから。<br> そしていつもどおり早々に学校に来て、だけど黒崎くんはいつだって予鈴5分前。今日も例外なくその時間ぴったりに現れたオレンジ色の頭に、あたしはめいっぱい右手をぶんぶん振って声を出す。<br>「おはよう! 黒崎くん!!」<br> その声のボリュームに、竜貴ちゃんやらちづるちゃんがびっくりしたようにあたしを見るのがわかったけれど、だって挨拶は基本でしょう? それに、朝から少しでも黒崎くんがこっち見てくれたら嬉しいし、だから気にせず一番の笑顔で手を挙げたんだ。<br> だけど。<br>「おう! オハヨ! 井上!」<br> あたしと同じように手を挙げて、ぶんぶん振りかえしてくれる黒崎くんは、やっぱりあたしと同じように笑ってた。たまに見せる、口元をほんのちょこっと持ち上げて笑う笑顔じゃなくて、顔のパーツをフルに使って。<br>「な...何あれどうしたの!?黒崎くん今日ヤケに機嫌いいじゃない?」<br> 黒崎くんはあたしに手を振り返すとすぐ自分の席へ向かう。そして机にどさりとバッグを置くと、椅子を引いて浅めに腰掛けながらバッグを開けて中身を取り出す。<br> それは、いつものこと。<br> ――ご機嫌じゃん?<br> にこにこ笑顔の黒崎くんをみて、みちるちゃんが意外そうにそう、言ったけど......。<br>「たつきちゃん......」<br>「ん?」<br>「なんで......黒崎くん、あんなピリピリしてるんだろ」<br> 水色くんたちと、楽しそうに話す黒崎くん。笑顔の黒崎くん。<br> そう、顔のパーツをフルに使って。<br><br>笑顔を、『つくってる』。<br><br>たつきちゃんが驚いたように『やっぱアンタ凄いわ』って感嘆の声をあげるけど、だって、わかるよたつきちゃん。<br> 挙げた手が、ゆるゆると元気なく無意識に重力に従って落ちていく。そして聞こえた答えは、あたしが感じたものを納得させるには十分だった。<br><br>「ああ......もうそんな時期なんだね」<br><br>――アイツの母親が亡くなったの。<br><br>あたしがそれに気付くことが出来たのは、多分、『同じ』だから。<br> いつもあたしが一方的に黒崎くんに感じてたシンパシー。勿論黒埼くんはそんなところは少しも見せないし、あたしだってそう。<br> だから、一緒。<br><br>雨が降る。<br> あの日と同じ、冷たい冷たい雨が。 ...
sendo traduzido, aguarde..